今のところ歯周病と全身疾患との関連性は、
状況証拠はたくさん見つかっているがまだ直接証拠は見つかっていないという段階です。
でも、かなりクロに近いぞ!ということで、歯周病が関係しているであろう全身性の病気を列挙してみます。
また、6月くらいから歯周病と新型コロナウイルス感染症との関連についての論文が見られるようになってきましたのでそれもご紹介します。
それでは先ず、歯周病はどうやって全身に影響を及ぼすのか、以下にざっくりとご説明します。
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歯周病が歯の周りで進行すると歯と歯茎の境界にある歯周ポケットがだんだんと深くなります。歯ブラシの毛先も届かないほどに深くなると、ポケットの中で増えて欲しくない菌が増殖します。
いわゆる歯周病です!
この菌や菌からの毒素が暴れ始めると歯茎はダメージを受けるので炎症反応が起きます。
そうすると、腫れたり出血したりして、菌やその毒素や炎症性物質が血管に入って全身に回っていき、いろいろな場所で病気を引き起こすのであろうと言われています。
心血管疾患
歯周病患者はそうでない人と比べて心血管疾患の有病率と発症率がともに高いとすでに相当数の報告が上がっています。
動物実験では、歯周病の原因菌と言われている細菌が動脈硬化を引き起こしました。
まだ実験室での段階ですが、歯周病の原因菌由来のモノが血液を凝固させる可能性があったので、実際の人の血管内でも動脈硬化を起こすかもしれないと示唆されています。
実際に、人の血管が詰まっているところから歯周病の原因菌のDNAが発見されてもいます。
まだ、歯周病の原因菌のどれが実際にどのように心血管疾患を引き起こすかの説明は仮設の域を出ていないのですが、今は外堀を埋めている段階でしょうか。
肺炎
肺炎は、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫によって引き起こされます。
肺炎患者の感染部位から取った細菌はその患者の歯垢の細菌と同じだったという報告がありますし、入院中に肺炎になる可能性は歯周病の人はそうでない人と比較して3倍も高かったそうです。
歯周病患者の細菌がたっぷり含まれている唾液や歯垢が気道に張り付いて蓄積していく可能性はあります。
日本では、肺炎死亡者の97%が65歳以上で、その内の70%以上が誤嚥性肺炎です。高齢者の口腔内の健康維持は肺炎の予防になります。
ガン
様々な研究を分析した結果、歯周病患者は口腔癌のみならず膵臓癌、肺癌、頭頸部癌と関連性があり、さらに癌の発症リスクも高くなることが分かってきました。
歯周病原体のある細菌が食道扁平上皮癌に多く認められましたが、健康な状態では発見できなかったという報告もあります。
口から入り込んできたと思われる扁平上皮癌関連とは別の細菌が腸内で集合体をつくって炎症を起こし、これが大腸癌につながっていくという研究報告もあります。
糖尿病
過去には糖尿病が歯周病や歯根の腫れの治療に悪影響を及ぼすので、口腔内の治療をする前に先ずは糖尿病をコントロールしましょうっていう歯医者もいましたが、現在では、糖尿病患者で歯周病がある場合は積極的に歯周病を治療して糖尿病を改善させる取り組みがなされています。
糖尿病は歯周病のリスクを高め、歯周病は血糖コントロールに悪影響を及ぼしています。
歯周病と糖尿病は互いに悪影響を与えているので、歯周病が改善すれば糖尿病にもいい影響が現れると考えられています。
歯周病と糖尿病はともに炎症反応が関与しており、さらに、歯周病の原因である口腔内細菌、生活習慣、噛む機能や口腔清掃状態などが糖尿病の症状に影響を与えていることから医科歯科の連携が最も取り組まれている分野かもしれません。
アルツハイマー
アルツハイマーも糖尿病と同様に歯周病と互いに関連していると言われています。
アルツハイマーは進行性で不可逆的な記憶、学習能力などの障害を引き起こす疾患ですが、脳の回路が破壊されて起こります。破壊を誘発するのはあるタンパク質なのですが、これが実は細菌侵入に対して身を守るために発動された物質が元ではないかという研究が最近発表されました。
つまり、歯周病原体からの毒性の因子が原因かもしれないということです。
アルツハイマーを誘発する物質の増加は歯周病の高齢患者に見つかっています。
口の手入れが行き届かないと歯周病になり、アルツハイマーの発症または進行のリスクを高める可能性があります。
母体感染
妊婦の細菌感染症は早産、流産、低出生体重、死産などに関連しています。感染症が胎児に影響を及ぼす経路には2つの仮説があります。
一つ目は、不衛生な口から細菌が移動して胎盤を通過し胎児にまで及ぶというもの。
二つ目は、歯周病細菌からの毒素、または歯周病による炎症に反応した防御因子が胎児に及ぶというものです。
動物実験ではある特定の細菌が胎児に被害を与えましたが、実際に歯周病と有害な妊娠結果との因果関係はまだ証明されていません。
しかし、妊娠中はホルモンの変化で確実に歯肉に炎症が起きやすくなっていますので、リスクを減らすためにも口の中を健康に保つことは大切です。
コロナウイルスと歯周病について
先ずはこの6月、イギリス・ケンブリッジ大学からの報告です。
新型コロナウイルス感染症では、糖尿病・高血圧・心血管疾患の持病がある人が重症患者になりやすいと言われています。
重症患者では細菌の重症感染症が多く、死亡者の50%以上に重症細菌感染症がみられました。
つまり、ウイルスにより損傷を受けた場所に細菌が感染を起こすという細菌性スーパーインフェクションが連鎖的に起こっていると考えられています。
そして、これらの細菌は口腔内からのものであろうと遺伝子分析で推察されています。
以上により、口腔内の衛生不良がコロナウイルス感染後の合併症のリスクを高めると考えられるので、治療により歯周病を改善し口腔内を常に清潔に保つことが合併症リスク軽減の一翼を担う可能性があります。
次は7月、アメリカ・ピッツバーグ大学からの報告です。
未治療の中等度または重度の歯周炎が新型コロナウイルス感染症を悪化させる可能性があると考えられています。歯周病は血液を凝固させて血栓を作るリスクを高めるので、治療によりこの作用を抑えることができれば、コロナウイルス感染症が重症化するリスクを低下できるかもしれません。
”歯周病は生活習慣病の要素を多分に含んでいるので、生活習慣が乱れていると全身疾患と歯周病が同時進行で悪化していく。しかし、お互いに関係することはない”
という従来の考えから、どうも歯周病の病原細菌が直接に全身性疾患に関与したり、歯周病による炎症が元となってそれが全身に及んでいるらしいという考えが定着しつつあります。
具体的にメカニズムはどうなっているのか、これからの研究結果が待たれます。
10年と経たないうちに診断はAIに取って代わられるだろうと言われています。すでに、血液から13〜15種類の癌を発見できるようになってきました。近い将来、採血よりもっと簡単な唾液や口の粘膜の採取からより多くの病気の診断や、病気のなりやすさの判定が正確にできるようになるでしょう。
でも、10年後も歯周病予防のお口の掃除は本人がやるしかないと思います。食事がカプセルだけにならない限り・・・・。