過去10年の間に、口腔の健康、腸内細菌叢、およびそれらと全身疾患との関連性を示す報告が度々あがっています。
観察機材、実験装置や解析法が格段に進歩したっていう理由もあるのですが、こんなことまで腸内細菌叢が関与していたんだというニュースに驚かされます。
例えば、今年の2月号は腸内細菌叢は子供の感情コントロールに関与しているらしいという話でした。(参照)
腸内には、免疫系細胞の50%以上が存在していて、それらは感染防御に関わり、慢性炎症にも関与していると言われています。
それで、大腸がん、肝臓疾患、糖尿病、心不全など循環器疾患、免疫系疾患が深く関わっているようです。
そんな腸内細菌は腸内に棲みついたら変化しないのかというと、そんなことはないわけで、CMでも、生きたまま菌を腸まで届けて健康的な腸内細菌叢を作りますって言ってます。
ところが実際は、口腔内細菌は胃酸・胆汁酸・免疫系などによって不活性化されるので腸まで届く細菌はあまりないのですが、口腔微生物叢のごく一部は、健常人であっても下部消化管を通過したり、腸管に定着したりすることができることが分かってきました。
口と大腸は腸管を通じてつながっており、食物、だ液、口腔内細菌は嚥下によって腸管へと流入して腸内細菌叢の変化に影響を及ぼす可能性があるということです。
それで、口腔細菌叢の乱れが腸内環境の変化を介して全身に影響を与えることもあるという報告があり、例えば、歯周病は歯を支える歯周組織が口腔内細菌により破壊されていく疾患で、歯周病に関与する細菌が全身疾患と関係ありと言われています。
歯周病と口腔内細菌叢は口腔~腸の間の微生物伝播を通じて高血圧と強く関連しており、例として、唾液由来のバイヨネラという菌は腸内にコロニーを形成して高血圧を悪化させると言われています。
腸へ移行した口腔細菌種が大腸がんの発がんに関係しているようだとか、口腔内細菌のうちアンモニアを産生する菌が腸管内に棲みつくと、アンモニアが酸を中和して胃酸バリアを脆弱化し、口腔細菌が腸に移行しやすくなるなど、これらの口腔内細菌は腸内細菌叢と相互作用し、腸内の常在微生物を攪乱し、あるいは、細菌からの代謝産物由来の物質が腸管内に異変を生じさています。
これから消化管の生態系バランスについては、口腔内細菌叢と腸内細菌叢の両方を同時に考慮する必要がでてきました。
口腔内を調べることで胃から大腸までの状態を調べることも可能になってきました。いくつかの口腔微生物種は、病的な腸粘膜や糞便から分離され、腸疾患のバイオマーカーとして同定されています。これは簡便かつ非侵襲的です。
以上、腸内細菌叢がさまざまな疾患に影響することはすでに知られており、さらに腸管の入口である口腔の状態が全身の健康の維持にも重要であることを細菌学的な見地から示したものです。
今後の医療戦略を考える上で口腔内細菌に光が当たってきましたね。