今世紀になって日本の文献に度々登場するようになった
ECC(early childhood caries)
これは6歳未満の小児の虫歯のことで、虫歯で穴があいていたらもちろん、
初期の
脱灰(だっかい)も虫歯としてカウントします。
3歳未満に虫歯があったら穴があいてなくても、これは“ひどい虫歯”(severe ECC)とされます。
6歳未満で前歯に穴があいてる虫歯があったら、これもsevere ECC。
乳幼児の場合、虫歯の原因が分かっているから、対処してれば当然虫歯はできないでしょうってことで判定基準は厳しいです。
それで、小児の虫歯の原因と考えられているのは次の3つです。
- 食生活不良(ダラダラ食い、お菓子・ジュース飲み放題など)
- 口腔清掃不良(歯磨きをしない、上手にできていない、フロスしない)
- エナメル質形成不全(生えたときからエナメル質が一部ない)
食生活不良と口腔清掃不良は家庭で対応できます。もちろん、歯医者で適切なアドバイスを受けた方が効果的な予防を行うことができます。
アンラッキーなことに先天的なエナメル質形成不全があっても歯医者に通って虫歯にならないようにコントロールできます。
虫歯の対処法が分かっているしフッ素という援軍もあって子供の虫歯はずっと減少してきました。
就学前健診で乳歯虫歯の本数は30年前の7本から2本に減少し、そして、30年前は90%の小児に乳歯虫歯があったのですが、今では30%に大減少しました。
ところが、最近は世界的に小児の虫歯減少に下げ止まり感が強い、あるいは、虫歯数にわずかですが上昇が認められている地域もあります。
それは、貧困世帯が増えたからと言われています。
日本より虫歯が少ない西ヨーロッパでは東ヨーロッパからの移民や中近東・アフリカからの難民の受け入れにより、貧困世帯が増えました。
貧困層は生活が苦しく、食事はもっぱらファーストフード中心(虫歯の原因となる炭水化物が多い)、子供の口腔衛生までなかなか手が回らず定期的な歯科健診を受けない、歯ブラシ・歯磨剤の購入や歯科治療への出費が困難という世帯もあります。
一般に、所得が増えると歯医者に行って治療します。所得が下がると歯医者に行く回数が減ります。
ところが、所得が下がっても一般病院には行きます。完全に歯科治療は節約の対象になっています。
つまり、所得が上がると虫歯が減る、所得が下がると虫歯が増える、という傾向があります。
日本は社会経済的には安定しているようにみえますが、貧困家庭が15%もあります。
さらに、コロナです。
コロナ禍で所得の減った家庭では虫歯発症が1.4倍も上昇しています。
さらなる所得の減少は子供を歯科治療へ通わせられないばかりでなく、そもそも子供の口腔衛生に関心がないとか、家庭で予防管理ができないということにつながっていきます。
例えば、子供の就寝時間が遅い家庭では「子供のおやつ時間を決めていない」「おやつに気をつけていない」が合わせて50%います。
この50%の家庭では虫歯が多くなる傾向があります。
そこで、対策ですが、
今まで小児の虫歯が減ってきたのは各自各家庭の努力の賜物。しかし、各家庭に任せっきりで虫歯は局在・遍在化してしまいました。これは共助・公助不足の結果です。
ですから、虫歯がある子供、あるいは、虫歯になりそうな子供を対象に、歯医者・家庭・行政が協力して上記のようなハイリスクアプローチを行うことはかなり効果的だと思います。
ところで、確かに小児の虫歯が減少し、3歳児健診で虫歯なしの子供が虫歯ありの子供より圧倒的にたくさんになりましたが、元々、虫歯あり集団は少ないので、その後にその集団が虫歯増加しても、国民全体での虫歯患者の割合にあまり大きな影響を与えません。
現実問題として、現在の40歳から60歳の層はほぼ100%に虫歯アリ、または虫歯経験アリです。高齢者の虫歯も増加傾向です。
そうなんです、問題は虫歯なし集団からの虫歯です。
この集団は大きいのでこの先ここからの虫歯発生数は虫歯アリ集団からの虫歯発生数より相当大きな数値を出すことになります。子供の虫歯は減少しましたが、大人になるにつれて虫歯は増加しています。国民全体の虫歯の数が大激減しているわけではないのです。
虫歯は世界で最も多い疾患で、永久歯虫歯は有病者ランキングでは糖尿病などを抑えて1位です。
歯周病が6位、本数が少なく萌出期間も限定的な乳歯虫歯がなんと10位!
日本では4,000万人に未処置虫歯があります。
ちなみに、国内の糖尿病予備軍は2,000万人です。
虫歯のある子供の集団を対象にしたハイリスクアプローチだけでは全体の虫歯数は減りません。
もちろんハイリスクアプローチは絶対に必要です。しかし、これだけではなく、虫歯あるなしに関わらず全体にアプローチした方が効果的だし、そうすれば、所得格差やライフスタイルの違いから生じる虫歯予防の格差を是正できそうです。
これを公衆的予防・ポピュレーションアプローチと言います。
それで、ポピュレーションアプローチですが、県政令市や市町村が施行の基準にしている厚労省が出す歯科保健業務指針は、1997年から虫歯が減ったから良しとしているのか24年間も改訂版が出ていません。
前述したように、小児虫歯の下げ止まり、成人の虫歯の多さ、虫歯につながる貧困層の増加の他にも歯周病の減少鈍化が見られる昨今ですからね。
近々改訂版が出るらしいという噂はあるので、厚労省や歯科医師会が現状をどんな風に捉えていてどのような対策を練っているのか、楽しみに待っています。
今回は虫歯の現状について気ままにダラダラと書いてみました。