コロナウイルスやペスト菌などの病原体が体内に入って発症する感染症と違って、
口の中に住んでいる常在菌が起こす虫歯は生活習慣病に分類されます。
700〜800種類もいると言われている常在菌は単独にバラバラに住んでいたら問題ないのですが、歯の掃除が行き届かない場所では大きな集合体をつくります。
細菌などの微生物の集合体を細菌叢(さいきんそう)と言います。
個々の常在菌は細菌叢(さいきんそう)内で常に一定の割合で存在しているのではなく、
健康的な状態から“望ましくない”生活習慣が続くと細菌の構成が変わり、悪さをする細菌が主力となって虫歯や歯周病が発症するようになります。
そこで、細菌叢(さいきんそう)はどのように変化していくのか、また個別の菌はどのような特徴があるかなどの細菌分析研究が行われています。
そんな中、幼児の虫歯に特有な細菌が注目され始めています。
今回はそんなトピックを入れて虫歯の話を進めて行きます。
〜先ずは、虫歯ができるまでの細菌叢の変化について〜
歯磨きやフロスがきちんと出来ているので磨き残しがない。
お菓子や甘い飲料を過剰に摂ることがない。
酸を作ったりアンモニアを作ったりする細菌など多様な常在菌がいるが、酸ができても唾液ですぐに中和されて、虫歯を作るような悪さはしない。
もちろんミュータンスはいない。
磨き残しがあるとそこに歯垢(=細菌叢)がたまって細菌が作った酸が停滞し始めます。
唾液が細菌叢の奥まで届きにくくなるので中和に時間が掛かるようになります。
まだミュータンスはいません。
細菌叢の中でアンモニアを作る細菌が多いと酸は中和されるので、この辺の細菌のバランスが虫歯になりやすいかどうかの分岐点になるという説もあります。
細菌叢の中が酸性になっていると、その酸に耐性のある細菌が増えてきます。
しかも、この細菌は酸を作るので細菌叢の中はますます低い酸性になります。
これらのバクテリアで代表的なものがミュータンスです。
このように酸をバンバン作って、しかも耐酸性がある細菌が主流になってくると、いよいよ歯は酸によって溶け始めます。虫歯の始まりです。
耐酸性があって酸を作る細菌はミュータンスだけではないのですが、最近、
特徴のある新しい2種類の細菌が見つかりました。
もちろん、急に出現したわけではなく、前から存在していたのですが最近まで認識できなかったのです。
この細菌は虫歯のある乳幼児の細菌叢に特有に存在し、しかもミュータンスに負けないほど酸を作ります。
その厄介者はビフィドバクテリウムとスカルドビアと言います。
ビフィドバクテリウムは乳幼児の虫歯の象牙質で見つかります。
スカルドビアは細菌叢や唾液中で見つかっています。
虫歯のない子では0〜10%くらい、虫歯のある子では40%くらいに見つかっています。
複数個虫歯のある乳幼児では90%近くあったという報告もあります。
虫歯に関係ありそうですね。
酸を作る能力がミュータンス並に高いビフィドバクテリウムとスカルドビアの特徴は、ミュータンスとちょっと違います。
- グルコースよりラクトースから酸を作る。虫歯の原因と言われている砂糖はグルコース(ぶとう糖)とフルクトース(果糖)から成ります。ミュータンスはグルコースを利用しています。ラクトースは母乳や牛乳・チーズ・ヨーグルトに含まれている乳糖のことです。
- ミュータンスが作る酸は乳酸がメインですが、ビフィドバクテリウムとスカルドビアは酢酸がメインです。酸の強さは乳酸の方が少し強いです。
- フッ素はミュータンスが酸を作るのを邪魔する働きがあります。ところがビフィドバクテリウムとスカルドビアには効きません。ビフィドバクテリウムとスカルドビアはフッ素があっても酸を作ります。
ビフィドバクテリウムとスカルドビア、手強そうでちょっと不気味な存在です。
乳幼児の虫歯にどのように関わっているかなど詳細はまだ不明です。
とにかく、ビフィドバクテリウム、スカルドビアやミュータンスなど酸産性能が高く耐酸性もある菌が入ってくることを恐れるのではなく、それらの菌が定住することを阻止しましょう。健全なステージ1を維持することです。