サッカーボールのリフティングの名手が試合でも名選手とは限りません。
練習では誰よりもシュートが素晴らしかったり、ドリブルが巧みだったりしても
いざ試合になるとさっぱりという人がいます。
試合では前回と全く一緒という奇跡的状況はあり得ないし、似たような状態も瞬時に様相は一変します。
繰り返しの動作は優れていても、変化に対応できなければ上手い選手にはなれません。
そこで、様々な変化に対応できるように練習しましょうと開発されたのが
デファレンシャル・ラーニングです。
デファレンシャル・ラーニングを行なった人は反復練習を行なっている人に比べて
明らかに優秀な成績を収めています。
デファレンシャル・ラーニングの基本的な考えは、
例えば、サッカーの試合では相手選手の動きやシステム、芝の状態、あるいは、審判の判定基準など変動する因子は山ほどありますが、
そのような如何なる状況の変化に対しても安定した対応ができるようにさせることです。
手段として、変化への対応能力を獲得させるためにスキルとそのスキルの応用が身につくような練習をします。
繰り返し運動はしないし、コーチが練習を止めて、
ココはダメ!こうする!というような注意も基本的には行いません。
故に、基本技術はある程度すでに持っている人がこの練習の対象になっています。
サッカーではデファレンシャル・ラーニングに関する論文がいくつか発表されていますが、
対象者はユース、あるいはジュニアユースです。
まだ、技術的に未熟な小さな子どもは対象となっていません。
スポーツ分野で取り上げられるようになったデファレンシャル・ラーニングを本場ドイツでスポーツ以外にも使ってみようという試みが3、4年前から出てきました。
2018年に発表された論文では、6〜9歳の子供を対象とした歯みがきにデファレンシャル・ラーニングを行なっています。
このように、とても日常的な歯磨きとかけ離れた方法を取り入れたデファレンシャル・ラーニングを受けたBグループは反復的歯磨き指導を受けたAグループの子供たちより丁寧に磨けていて歯茎もきれいだったと報告されています。
Aグループについて、反復的運動の経験が浅い子供の場合は繰り返し運動にバラツキが大きくなりがちです。
さらに、高度な歯磨き動作は成人でも達成されにくいのに、まして児童では短期間の歯磨き指導では難しいものがあります。
では、なぜBグループはきれいに磨けていたのでしょうか?
そこには自己組織化学習が働いていたのではないかと言われています。
自己組織化学習とは、幼児が教えられなくても言葉を自然に身につけていくように、誰からも習うことなく自然と自己の中で分類・整理し理解できるようになることを言います。
歯磨きのデファレンシャル・ラーニングが自己組織化学習を後押ししたと考えられています。
お口の衛生に対してデファレンシャル・ラーニングが効果ありかという研究はまだ始まったばかりで、謎がまだたくさんあります。
例えば、歯磨きは様々な骨格筋の複雑で高度に調整された動きが必要で、効果的に歯磨きするには運動能力や認知能力を上げなければなりません。
特に、就学前の子供は歯磨きスキルが低いので、親が磨くか子供の歯磨きを監督することが勧められています。
デファレンシャル・ラーニングが活用されることによって運動能力の訓練だけでなく細かい運動も身につくようになったら、これからの歯磨き指導の方法が変わるかもしれませんね。