しみず小児歯科のブログ
〜歯科医がお口のことを自由気ままに書いてみた〜
矯正

知覚過敏

コロナ感染症で患者さんもこちらも遠慮(配慮か、危惧かな)して

患者さんの来院数は減っているにもかかわらず、

なぜか「歯がしみる」との訴え頻度が増えています。

 

ウイルス感染予防に口腔衛生は大事ですとの情報をメディアで見聞したからでしょうか、

ゴシゴシと強く磨きすぎたのかもしれません。

 

「歯がしみる」患者さんは強く磨き過ぎで歯茎が退縮して歯の根っこが剥き出しになってしまっています。

この状態で冷たい飲み物を口に含んだらツーンとしみます。

いわゆる知覚過敏です。

 

知覚過敏は成人の10〜30%に起こると言われています。

軽い不快感から何を食べても飲んでもしみて歯がうずくという重度な症状まで程度の範囲は広いです。

冷たい、熱い、酸っぱい、甘い、塩辛い、辛いもの、吸い込んだ空気…これらが知覚過敏を誘発する因子となり得ます。

 

歯の表面にあるエナメル質は外からの刺激を防御するという役目もありますが、

歯の根っこにはこのエナメル質がありません。

通常、エナメル質と根っこの境目は歯茎としっかりくっついているので、口に含んだ冷たい水は根っこに触れることはないのですが、歯茎が下がってしまったり、歯周病や歯肉炎で歯茎が腫れて歯と歯茎の隙間に飲み物が入り込めるようになると知覚過敏を起こしやすくなります。

また、虫歯でエナメル質が無くなったら、そこは知覚過敏を引き起こす可能性が大です。

 

乳歯では「しみる」という感覚を伝える神経が鈍いので知覚過敏はほとんど起こりません。その代わり知覚過敏のような痛みを訴えないので家庭では虫歯を見逃しやすくなります。

 

では、どうして痛く感じるか。

エナメル質の内側にある象牙質には無数の穴があります。象牙細管と言います。

直径が1μm(=0.001㎜、ほぼ細菌の大きさと同じくらいです)前後の管で、中心に向かって伸びています。

中は液体で満たされており、さらに圧受容器という刺激を感じる器官があります。

温度の変化や乾燥などによって中の液体が動いて、それを圧受容器が感知して痛いという信号になるのです。

 

↑電子顕微鏡で見た象牙細管です。穴だらけですね。この穴は歯の内部まで通じていて、液体で満たされている管の中に細胞や神経があります。

 

↑イメージとしてはこんな感じです。

 

次は、知覚過敏の治療法です。

まず、象牙細管内の液体が移動しなければ知覚過敏は起こらないので入り口を塞いでしまおうというものです。

これには色々なやり方があります。

「薬と反応した沈殿物で象牙細管の入り口を塞ぐ方法」の薬とは、フッ素・グルタルアルデヒド・シュウ酸などがあります。

それらを使った製品がいくつかあって、どれもしみる箇所に塗布するタイプです。

直接的に入り口を塞ぐ方法としては樹脂を塗る、1μmよりもっと細かい粒子を詰めるなどがあります。

 

もうひとつの治療法は、圧受容器が働かないようにする方法です。

これは、最近流行りの舌下免疫法と同じく脱感作を利用した方法です。圧受容器が感じる圧とはグイっと押す圧ではなく電圧です。

細胞膜の内外間の電圧差のことです。電圧差を生じさせないようにする目的で使われるのが硝酸カリウムで、これはあのシュミテクトの薬効成分です。シュミテクトで歯磨きするより、しみる所にシュミテクトを置く方が効果ありです。

 

レーザー照射という方法もあります。レーザーで象牙細管内を固めてしまって液体をなくしてしまうとか、先に記した沈殿物を作る薬と一緒にレーザー照射して瞬時に入り口を塞いでしまおうという方法があります。

 

以上、方法はいくつかあります。知覚過敏の程度で方法は変わるかもしれないし、何を選択するか歯医者の好みもあると思います。

残念ながら100%完璧に効く方法はまだないのですが、次に挙げる予防法を併用しながら治療すれば必ず緩和されます。

 

それで予防法です。

まず、強い歯磨きはしないことです。

これは歯茎を痛めます。きれいに磨けて、しかも歯茎を傷つけない磨き方がわからない人には一度歯科医院に行って歯科衛生士に教えてもらうことをお勧めします。

百聞は一見というか一行に如かずと言った方がいいか、力加減やブラシの先の当て方などは実際に試してみた方が習得は早いです。

それから、飲食物に関して、酸性の強い飲食物を毎日多頻度に摂取し続けるとエナメル質が溶けて薄くなり知覚過敏になりやすくなります。

大概のケースでは唾液が瞬時に中和してくれますが、何事も取り過ぎは注意です。

歯科医院で知覚過敏と診断されて薬をつけたら、ワイン・酸性ジュース*・炭酸飲料はしばらく我慢してください。せっかくつけた薬が溶けてしまいます。

*酸性ジュースとはpHが結構強い酸性の飲み物で、乳酸飲料・果汁ジュース・スポーツドリンクなどがあります

 

 

歯がしみたら先ずは歯医者に行って、原因は何かを見つけてもらいましょう。

知覚過敏だったら、強い横磨きによるのか、それとも虫歯、歯周病から来ているのか…原因究明してから治療です。

 

今回のコロナウイルスに限らずインフルエンザでも風邪ウイルスでも感染予防にはお口を清潔に保つことがとても大切です。でも、ちょっと頑張りすぎると知覚過敏になる恐れがあります。

歯科衛生士は、適切な磨き方を指導するだけでなく、各々の磨く強さに適していて、しかも磨きやすい歯ブラシを見つけます。歯磨きがちょっと不安な方は歯科医院を訪問して尋ねられるといいですよ!