しみず小児歯科のブログ
〜歯科医がお口のことを自由気ままに書いてみた〜
衛生

新型コロナウイルス学

先日まで元気だった人の容態が急変してしまう…

インフルエンザなどとは違って、我が国ではこれまでになかった大規模な感染症に今まさに襲われています。

今回は、見えない敵ー新型コロナウイルスについて書いてみます。

 

一般にウイルスの大きさは0.01~0.1μm(μmは1mmの1000分の1)で、

口の中にいる細菌の10分の1から100分の1です。

普通の顕微鏡では見ることができません。

コロナウイルスは0.1μmくらいと言われています。

 

ウイルスの中心には核酸があります。

私たちの身体をつくっている細菌の中にある核にもその核酸はあります。

 

核酸にはDNAとRNAがありますが、ウイルスはどちらか一方しか持っていません。

コロナウイルスはRNAタイプです

 

核酸はカプシドと呼ばれているタンパク質の殻で囲まれています。

コロナウイルスの場合はインフルエンザウイルスと一緒でカプシドの周りにエンベロープという膜があります。

エンベロープにはスパイクと呼ばれる突起があり、ウイルス独自の形をしています。

コロナウイルスのスパイクは王冠のような形をしているので“コロナ”という名前がつきました。

このスパイクは人の細胞への吸着や侵入を任されているといった厄介者です。

コロナウイルスの構造は以上ですが、これがとんでもない悪さをするんですね。

 

では、どのように人にコロナウイルスが感染するのでしょうか。

まず、空気中から、あるいは手を介して口、鼻や目から入り込みます。

 

人の細胞が吸着を拒否してくれたらよかったのですが、このウイルスは細胞のレセプターに上手いことくっ付いて細胞内に潜り込みます。

細胞内に入ったウイルスはカプシドが分解されて中からRNAが出てきます。

このRNAが細胞の核に入って体を増やすためにRNAを複製し、さらに必要なタンパク質をつくります。別々に作られたRNAとタンパク質は組み立てられてウイルスの形になります。こうしてウイルスは材料を人の細胞から調達しながらどんどん分身を作っていくのです。そして、細胞から放出されてウイルスは広がっていくのです。

 

では、どうやって新型コロナウイルスと戦っていくのか、対処法は?

まず、既に盛んに言われているように、このウイルスと接しないようにすることです。

手洗い、換気と適切な湿度、マスク、3蜜を避ける、そして免疫力を高めるですね。

 

ウイルスが体内に侵入してきた場合には、事前に接種したワクチンであらかじめウイルスに対する抵抗力をつけておいて、ウイルスによる病気の発症、あるいは重症化を予防します。

今のところワクチンは集団でウイルスに対する免疫を作る唯一の方法です。

 

コロナウイルスのワクチンは世界で既に100種類ほど開発されています。

今後もっと作られるでしょう。

しかし、安全性を調べるのに数ヶ月から数年の歳月が必要です。

今はそんなにのんびりしている時間はないので、どのワクチンを選んで、その安全性や有効性をどうやって短時間に評価するか、皆が知恵を絞って協力しているところです。

どこかの会社や国が商業的損失を被る可能性は排除できませんが、ここは広い心で頑張って欲しいものです。

次の対処は、もし罹(かか)ってしまって、しかも症状が出てしまった場合の薬です。

新型コロナウイルス限定の薬はまだできていませんが、既存の薬でこのウイルスにも効果があるものが次々と試されています。

 

話は少し戻って、ウイルスの複製のところですが、細胞内に入り込んだウイルスのRNAは一度分解切断され、断片が新たな分身を作るために必要な役割を与えられるのです。

 

さて、初期のコロナウイルス感染症に効くと言われているアビガン

このアビガンは分解切断を邪魔します。だから、細胞内に入り込んだウイルスの増殖を防ぐことができるのです。

入り込んだウイルスを抹殺するわけではないので、大量にウイルスがいるケースでは増殖を抑えらてもウイルスが元からたくさんいるわけなので効果には疑問符が付いています。

それで、アビガンはまだウイルスが少ないであろう初期には効果的と言われているのです。

使用が承認されることになったレムデシビルもRNA増殖を抑える働きがあります。

 

ちなみに、アビガンと同じでインフルエンザに対する薬であるタミフルは、アビガンと作用が違って増殖したウイルスの細胞からの放出を抑える薬です。新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスは細胞からの放出方法が異なっていたのでタミフルは新型コロナウイルスに対し効果がありませんでした。

 

ウイルスの増殖を抑える薬では対処しきれずに重症化してしまった場合には、体内に入り込んだウイルスをやっつけるはずの免疫系が暴走していろいろな臓器に障害を与えたり、肺の中の血管から成分が肺の中に入り込んで肺が障害を受けて呼吸が難しくなって、さらにそこから障害が全身に広がることもあったり、血管中に血栓ができやすくなって脳や心臓にダメージを与えたりすることが報告されています。

コロナウイルス対応だけではなく、上記の致命的症状が出ないようにする薬も投与されています。

 

今、世界中の研究所ではこのコロナウイルスの構造を細かく細かく分析して、その情報を公開しています。それを使って各国が新しい薬を開発しています。外にいるウイルスが体内に侵入し増殖して広がっていく過程の中でどこの場所を叩くことが最も安全かつ効果的なのか、人類共通の敵には共同作業で対抗しないと、ですね!

きっと近い将来にワクチンと重症化した患者にも効果的な薬ができるはずです。