もう10年ほど前の話です。
診療の片付け終わり帰宅準備している矢先に電話が鳴りました。
夕食を食べていたら急に口の中が痛いと娘が泣いている−ということでした。
しばらく待っていると来ました、苦痛と歯医者への恐怖(?)で真っ赤な目に強ばった顔の女の子が。
口の中を覗きましたが痛みの原因が発見できません。
もしやと思い、舌を下げて大きく息を吸ってもらったらありました、扁桃腺に突き刺さった魚の骨。
頑張って大きな口を開けてもらい、慎重にピンセットで骨を抜きました。
痛みと恐怖からすっかり解放された女の子は元気に帰っていきました。
次は30年以上前の話です。
大学時代の友人M君がトイレで大きい方をしようとしたら、経験したことのない激痛に襲われました。
こんなに酷い急性の痔があるんだろうか、あるいは、もっと恐ろしい病気ではなかろうかと狼狽した彼は勇気を振り絞って肛門科を受診しました。
すると、なんと出口に太くて長い魚の骨が突き刺さっていたそうです。
さすがの肛門科でもレアな症例らしく、先生は病院のスタッフを集めて観覧させたそうです。
それ以来、彼はその病院に恥ずかしくて近づけません。
ちなみに、彼の趣味は釣りとそれを捌いて調理して食べることです。
今回は「魚の骨」のお話です。
突き刺さった魚の骨症例をまとめた東北大医学部耳鼻科の論文が今年の8月に発表されたのでご紹介します。
2015年から2020年までの5年間に東北大学病院で骨が刺さった状態を確認できた症例は270件。
- 0〜4歳児が全体の26%
- 0〜12歳で51%
乳幼児から学童期までの間に多いですね。
高校・大学生は少ないです。
しかし、30代は少し増えて20件(全体の7%くらい)
この30代のペースが70代まで続きます。高齢者に多くなるという傾向はないです。
30代からほぼ一定です。
12歳以下では139例に骨が刺さっていたのですが、そのうちの138例が中咽頭領域でした。107例は直視しながら抜きましたが、31例は内視鏡を使って抜いています。
最後に、魚の種類です。
トップ5は1位から
ウナギ 34例
サバ 33例
サーモン 33例
アジ 30例
カレイ 28例
仙台ではどこの魚屋も店先に焼きカレイが並んでいますが、そのような光景を静岡では見たことがないし、これはあくまでも仙台の大学病院での話ですから、地域によって順位や種類は変わってくると思います。
そのカレイですが、直接みることができない下咽頭や食道に刺さる率が高い(30%)のが特徴で、
ウナギ、サバ、サーモンなどは60%以上のケースで口から直接に骨を抜き取ることができましたが、カレイの場合はそれが36%でした。
57%が内視鏡を使った摘出、7%(2名)は全身麻酔下の手術が必要でした。
同じ仲間のヒラメを含めてカレイ・ヒラメの骨は「要注意」です
ご飯を丸めて飲み込めば魚の骨はとれるもんだと言われてきました。
実際、ほとんどの場合はそうなんでしょうが、そうもいかないケースはどうするか、突き刺さる骨はどの骨なのか、魚の種類によって刺さり方に違いはあるのか、これらを初めてまとめたユニークな論文は今後の食生活の参考になったでしょうか。
最近の魚商品は骨を全て抜いた切り身なんてのがあって親切この上ないご丁寧さです。
安心・安全な魚料理をご賞味くださいという趣旨だそうです。
でも、M君は今でも骨つき魚を食しているだろうな。
もしかしたら、子供には魚の骨を一生懸命に抜いていたのかもしれない。