酸で歯が溶ける現象から虫歯は始まります。
しかし、たとえば、コーラのような酸性の炭酸飲料を飲んでも歯は溶けません。
唾液が瞬時に中和してくれるからです。
唾液が届かないところに酸が留まっていると歯の表面のエナメル質がじわじわっと溶け出すのです。
では、唾液の届かない場所はどこか?
それは積もり積もった歯垢(プラーク)の底です。
ところで、酸は誰がつくり出すのでしょうか。
それは、口の中にいる常在菌の一部の菌です。
常在菌は誰の口にもいる細菌です。700〜800種類くらいあると言われていますが、特別な細菌ではありません。
130年くらい前に口の中の細菌がつくり出す酸が虫歯の原因だろうという仮説が立ちました。証明されたのは70年くらい前です。証明には充分な機材とそれをまかなう資金が必要、ニュートリノがいい例です。時間はかかりましたがこうして「どうして虫歯ができるのか?」の仮説が証明されました。
ほぼ同時期にフッ素が虫歯を予防するらしいという研究も進み、原因と予防法が一気に解明されたアメリカでは虫歯の数が減っていきます。
さらに、50年くらい前に、酸素のない状態でも細菌を観察できるようになったり、とても小さい所の酸性度を測れるようになったりと研究装置が飛躍的に進歩して、虫歯研究も新しい時代を迎えました。
最もセンセーショナルな出来事は数ある口の細菌の中でミュータンスって菌が虫歯の張本人だと指定されたことでしょう。
この菌は空気があっても無くても生きていけます。空気がないところで発酵して酸をつくります。厄介者です。
歯垢の底は酸素は少ないし、唾液も届かないし、細菌の作った酸で酸性になっている。
だいたいの常在菌はこんな環境は嫌いなんですが、ミュータンスは丈夫、せっせと酸をつくって歯を溶かします。
こんな悪いやつはやっつけてしまえ!ということで遺伝子組み換えでミュータンスを無力化しちゃえなんて研究も行われていました。ー恐ろしい!
当時は虫歯研究が最も華やかな時代で、歯科の大学では「虫歯物語」なるものが教えられていました。
まず、ミュータンスが登場して、ネバネバをつくって歯にひっつき、そこに様々な常在菌が集まってきて歯垢が形成され、糖分を分解して酸をつくって歯を溶かす。
こんな“あらすじ”です。
ところで、悪さをする細菌をひっくるめて細菌の魂を歯垢(プラーク)と呼んでいますが、実際に歯にひっついているのは細菌の魂だけでなく、その死骸、細菌が作り出したもの、唾液の成分など様々なものが集まっているので、最近では「バイオフィルム」と呼ばれるようになってきました。
時代は下って20〜30年くらい前になると、何にも悪さをしないバイオフィルムがだんだんと悪いやつに変わっていくことが判ってきました。
細菌群と酸素がどのくらいあるか、とか酸性かアルカリ性か、等々彼らの周りの環境とが相互に作用して虫歯ができやすいバイオフィルムに変化していくのです。
ミュータンスがなくてもバイオフィルムはできるし、虫歯ができることもわかりました。
つまり、ミュータンスは確かに悪いやつですが、旧虫歯物語のように最初にミュータンスありきではなかったのです。
バイオフィルムがだんだんと悪い方へ進んでいくということは、それに応じてタチの悪い細菌が次第にのさばるようになってきて、ついにはミュータンスが悪の限りを尽くして暴れまくる、、、
だから、ミュータンスを始末してしまおうではなく、最近ではミュータンスが活躍できる環境にしなければいい、そういう考えが主流になってきています。
“明けても暮れてもミュータンスばかりで、そんな一つの特定の菌だけ対象にしていてもしょうがないでしょう”と私が大先輩に嘆いたら、彼らは若かりし頃よりミュータンス一筋に研究してきたのだから、それを否定するようなことを言ったら可哀想だろう、と諭されました。20年以上前の話です。
今でも、ミュータンス・テストを施行している歯医者はあると思います。
↑お口の中にミュータンスがいるか調べるテストです。
ミュータンスがた〜くさんいたらバイオフィルムは危険ゾーンに突入している可能性が大です!!
即、虫歯予防のプログラムを実践してください。
ミュータンスの数が少なかったら、その状態を維持していきましょう。
ミュータンスがいた!とがっかりすることはありませんよーと以上の解釈でOKです。
次回は虫歯予防についてお話ししたいと思います。
〜最後までお読みいただきありがとうございました〜