しみず小児歯科のブログ
〜歯科医がお口のことを自由気ままに書いてみた〜
研究

腸内細菌と温泉 ー腸内細菌の話 その3ー

ヒトの腸内は細菌などから構成されている複雑な生態系を有し、

その細菌叢は代謝・炎症・免疫など多くの生理機能に影響を与えています。

 

腸内細菌の適正化により肥満・糖尿病・アレルギー・感情抑制・自閉症など

様々な疾病の症状が改善するといった報告もたくさん出ています。

と、最近よく言われていますが、

実は、腸内細菌叢は人それぞれ異なっています

だから、適正な腸内細菌叢は個人ごとに異なると考えられています。

 

適正な状態から適正でない状態へ変化する ー この変化が病気に大きく関連しているのではないか? ということで、腸内細菌の変化を分析することが、いろいろな病気の発症との関係を明らかにする上で重要そうです。

 

生まれたばかりの赤ん坊の腸内は無菌です。

母乳を飲むことで入り込んだ細菌の中で最も増えるのは母乳を分解して栄養源にすることができるビフィズス菌です。

離乳食を食べるようになると、それを分解できる細菌が増え始め各個人がそれぞれに合った細菌が定着することになります。

このように、食習慣・生活習慣・運動習慣が腸内細菌に影響を与えています。

それらの習慣は個人差があるので当然腸内細菌の様子も個人別に変わってくるだろうということです。

しかし、最も影響力の強い因子は薬剤です。

例えば、抗生物質や胃酸を抑える薬は腸内細菌に影響を与えることが容易に想像できます。

 

薬が腸内細菌に影響を与えているなら、健康の増進や病気の治療に利用されてきた温泉も実は腸内細菌をいい方向へ変化させているのではないか?

そんな疑問に対して昭和6年日本で初めて温泉療法施設が設けられた九州大学が今年の2月に試験結果を発表したのでご紹介します。

太古の昔から湯治という温泉療法はあったし、経験則からか「この病気にはあの温泉が効くと言い伝えられてきましたが、なぜ効果があるかまでは知られていませんでしたので、なかなか面白い結果が出ています。

 

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長い歴史がある日本の温泉には 10 種類の泉質があり、それぞれ効能が異なると言われています。

が、それらがどのような影響を与えるかについてはほとんど解明されていません。

そこで、別府温泉の異なる泉質に1週間毎日20分以上入浴しその前後における腸内細菌叢の変化を分析しました。

結果は

 

炭酸水塩泉:ビフィズス菌が有意に増えた

単純泉:オシリバクターが有意に増加

硫黄泉:ルミノコッカス、アリスティペスが有意に増加

 

 

お肌がツルツルになる「美肌の湯」と言われる炭酸水素塩泉は皮膚だけでなく胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、糖尿病にも効果的とされています。

ビフィズス菌は腸内細菌を整え大腸菌などの感染源となる菌の増殖を抑えるし、胃の健康にも関連しているので温泉効果と関係性ありって感じです

 

オシリバクターはコレステロール値の低下に関連している細菌です

単純温泉は万人に優しい温泉です。自律神経不安定症、不眠症、うつに効くのはその優しさ由来でしょうか。

オシリバクターが関係しているのでしょうか?

 

硫黄泉は糖尿病に効能があるとされています。確かに、インスリンの働きが悪くなる病気の改善に期待されているアリスティペスが増加していることは正直驚きです。

硫黄泉はまた高血圧・動脈硬化にも効能ありとなっていますが、ルミノコッカスは糖質の吸収と脂肪の蓄積を促すので脳梗塞や心筋梗塞のリスクを上げると報告されています。硫黄泉と腸内細菌との関係は複雑です。

体調によっては身体にいいのか悪いのか?どうなんでしょう?

 

泉質ごとに効能が異なるのは腸内細菌が関連しているかもしれないからと思わせる結果でした。より明確な理論的根拠が明らかになれば、温泉の泉質別に個別化した医療的利用ができるようになるかもしれません。さらなる研究の発展が待たれます。