しみず小児歯科のブログ
〜歯科医がお口のことを自由気ままに書いてみた〜
小児

残存乳歯6例のお話

前回は永久歯の先天性欠如の話でした。

今回は、ちょっと古いですが2008年の日本小児歯科学会での研究発表です。

仙台の五十嵐先生の研究で、共同研究者の私はちょいとお手伝いしただけですが。

全て永久歯になっているはずなのに乳歯がまだ残っていた6例の話です。

 

症例1  13歳女性

前歯の横の側切歯という歯が左右とも先天性欠如でしたが、そこに犬歯が生えてきて前歯はうまい具合に4本揃って、それで犬歯のところは隙間ができたかというと犬歯の乳歯がそのまま残っていた、という症例です。

もし、その乳歯が抜けてしまったらそうするかを検索したら、インプラントにした、接着性のセメントで歯をつくってはめ込んだ、という過去の症例が出てきました。抜けても策はあるので長く保ってくれることを期待することにしました。

 

 

症例2     19歳女性

下顎の左右の第二小臼歯(6歳臼歯の手前の歯です)の先天性欠如で、乳歯が抜けずに残っています。この乳歯は通常永久歯に比べると高さが低く奥行きがあることから噛み合わせに支障をきたすことが予想されるので、抜歯して矯正治療したり、思い切って親知らずを移植したりするのですが、この例ではしっかり永久歯の代役を果たしていたので、抜かずにそのまま様子を診ていくことにしました。

 

症例3  35歳女性

症例2と同じく下顎の第二小臼歯の先天性欠如で乳歯が残っています。グラグラしたりせず機能的に永久歯の代役を果たしていますが、レントゲン写真で根っこの吸収が認められました。ちょっと心配です。

 

症例4   18歳男性

永久歯6本の先天性欠如による乳歯の残存です。歯が少ないので、乳歯は抜歯せず使える限り残します。乳歯が機能できなくなったら部分的な義歯やブリッジを入れて、安定させるのに30年かかったという報告例がありました。長時間噛み合わせを安定させるには患者さんとの良好な関係を築くことが必要です。

 

症例5 19歳男性

永久歯があらぬ所から生えてきたので乳歯がそのまま残ってしまったという症例です。永久歯がまだ未完成で、しかも、とんでもない方を向いていなければ乳歯を抜いて窓をつくっておけば単純な処置で改善できるのですが、この例では、歯は完成しているので乳歯の抜歯後に永久歯をひっぱり出して矯正措置でならべる必要がありそうです。

 

症例6    62歳の女性

下顎の第二小臼歯の先天性欠如でそこの乳歯がいまだに残っています。乳歯の根っこはいつかは吸収され脱落するものだという報告はありますが、吸収されっぱなしではなく再修復も起こり得るという報告もありました。吸収スピードがあまりに遅いとプラスマイナスがゼロという平衡状態になって乳歯は残り続けることができるのかもしれません。

 

結論として、乳歯を長く機能させることは難しい。しかし、噛み合わせ、虫歯、歯周病に注意して保存するという試みは無謀ではなさそうです。抜歯してからどうするか、残した乳歯が保ちそうもなくなってきたらどうするか、そんなことも治療計画に入れておいてじっくり対応することが肝要です。

 

ちなみに五十嵐先生は3.11で診療所が津波被害に遭い、世間の一部では水没歯医者として有名です。今も元気に元の場所で診療を続けています。