前回は歯肉炎の話でした。
今回はその続編です。
歯肉炎が悪化して歯周炎になると、口だけにとどまらず全身に悪影響を及ぼします。
それについては、
2020年8月20日号のブログ「歯周病と全身疾患とコロナウイルス」で紹介しましたが、
口の細菌がどのような経緯で全身に作用するのかはいまだきっちりと解明されていません。
そこで、今回はどんな仮説があるか簡単に紹介します。
1)菌血症説
口の中の細菌が血管内に侵入することで菌血症を起こすというものです。
実際に病気になった全身の臓器から歯周病・虫歯関連菌のDNAが検出されています。
例えば、コラーゲン結合タンパク質を有するミュータンス菌が血管に入って、
その血管の内皮を傷つけて炎症を増大させ脳出血を誘発していると報告されたのは2015年でした。
2022年には血管内のミュータンス菌が血管炎症を起こし、その結果として肺癌の転移を誘発したという報告も出ています。
動物実験と疫学調査では菌血症説はアリ!と出ていますが、実際には歯ブラシでも歯茎は出血して一過性の菌血症もどきは日常的に起こっているし、
その場合、菌が血管に入ってもすぐに防御反応が起きて何の問題もないので口から遠く離れた臓器に悪さする可能性はあるのでしょうか。
もっと確実な証拠が欲しいところです。
2)サイトカイン説
細菌やウイルスが体内に侵入してきたときに免疫に関与する細胞間の情報を伝達して悪者をやっつける反応を促進させる働きをするものを炎症性サイトカインと言います。
炎症性サイトカインばかりだと炎症が過剰に進むので炎症を抑制するサイトカインもあります。
うまい具合に調整されているのですが、このバランスが崩れたり、
サイトカインが他の臓器に不具合を与えたりして全身性の病気を引き起こすというのがサイトカイン説です。
歯周病になると確かにサイトカインは放出されるのですが、
果たして全身性疾患まで引き起こすほどの量が出ているかというと、
それほどでもないよね、と言われていて、今のところまだよく分かっていません。
3)腸内細菌関与説
腸内細菌は人体最大の免疫系で全身の免疫応答にも関与しています。
腸内細菌叢(そう)が変化すると 肥満・糖尿病・肝臓などいろんな臓器に影響が出ると言われています。
では、歯周病菌が腸まで届いて腸内細菌を変化させているのでしょうか。
ヒトは食事のときも含めて一日1L以上の唾液を飲み込んでいます。
歯周病菌の中には耐酸性が高いものもあるので胃液という難敵を潜り抜けて腸内に入る可能性は充分にあります。
歯周病菌のせいで腸内細菌叢のバランスが崩れて腸管自体を害すれば他の臓器にまで悪影響を与えるかもしれません。
大雑把に3つに分けましたが、これらが解明されればお口の健康を保つことの大切さが更にクローズアップされますね。