家族から指摘されるけれど、本人はほとんどの場合気づかないのが
「歯ぎしり」
深い眠り(ノンレム睡眠)から睡眠が浅くなったとき(レム睡眠)に起こりやすいことは検査で分かってきましたが、原因はいまだに不明です。
原因の候補としては、
①よく言われるストレス。ストレスは万病の元と言われて随分と経ちます。
ストレスで働く脳内の作用物質は結構分かってきているのですが、具体的に歯ぎしりでの作用は分かっていません。
②タバコ・アルコール・カフェイン・睡眠時無呼吸症候群などによって睡眠の質が悪い。
③噛み合わせに異常があって噛むことに関係する筋肉のバランスが崩れている。
④日常的にグッと歯を食いしばる習慣がある。力仕事に就いている方やスポーツ選手。
以上の原因が複合的に作用している可能性もあります。
余談1:むずむず脚症候群というのがあって、脚がむずむずして眠れないくらい気持ち悪くなる病気で、原因はよく分かっていないのですが、鉄分の不足以外は歯ぎしりと全く同じことが原因ではないかと言われています。歯ぎしりと何か関係があるのかもしれません。
人によっては歯ぎしりがあってもへっちゃらという場合もあります。もしかしたら、精神的ストレスを解放しているのかもしれません。
歯ぎしりはそれ自体が病気そのものということではなく歯ぎしりによって何か問題が起きる可能性がある、つまりリスク因子だと考えられています。今現在へっちゃらな人でも高齢になると深刻な症状が現れることがあるので要注意です。
では、何のリスクかと言うと
◆歯が削れる・折れる・詰め物がとれる
◆歯がぐらぐらしたり、歯列が崩れて歯周病の原因となる、
あるいは歯周病が悪化する
◆エナメル質が削れて象牙質が剥き出しになって知覚過敏になる
◆ぐいぐい噛みすぎて疲労・頭痛
◆セラミックの被せ物は割れやすい
◆インプラントが壊れる
◆周りの人に騒音
というように、日常生活の質に悪影響を及ぼします。
それでは、治療法です。
ストレスが原因かなという場合は治療の最初のステップとして提案されているのがリラクゼーションです。リラックスした状態に向かわせるようにトレーニングします。
急激な激しい歯ぎしりの時は薬物療養もあります。急性症状は改善されますが、一般の臨床では推奨されていません。
タバコ・アルコール・コーヒーなどを控えて睡眠の質を高めることも推奨されています。
アルコールは睡眠導入にはいいのですが、眠りが浅くなるので歯ぎしりが起きやすくなる可能性があります。
昼間に日光に当たる、寝る前にパソコンなど目からの刺激を控える。
これらもリラックスした睡眠に効果的と言われています。
以上の治療法は残念ながら有効性の確証が得られていません。
つまり、歯ぎしりを実際に押さえ込むことができていないのです。
それで、歯科医院でも最も一般的に行う治療は、歯ぎしり自体をなくすことが困難であるから、歯ぎしりによって起こるであろう事態を防ぐ目的のマウスピースです。
マウスピースはギリ!ギリ!という食いしばりから歯・歯列を保護します。
不必要な筋肉の活動を低下させることもありますが、効果は一過性と言われています。
完治させるのではなくあくまで障害予防措置という認識です。
マウスピースは歯型をとってから作る、いわゆるオーダーメードですから装着感は悪くないです。
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長い前説が終わっていよいよ本題です。
1歳半や3歳児の検診でよく聞かれるのが
「この子歯ぎしりするんですけど、大丈夫ですか?」
上に記したように、成人の歯ぎしりは厄介なことを連想させるので我が子を心配する気持ちはよく分かりますが、子供の歯ぎしりと成人の歯ぎしりは別ものなんです。
子供の歯ぎしりは成長過程で普通に見られる生理的な現象です。
心配無用です。
歯ぎしりはだいたい生後6ヶ月ごろから始まり、すべての永久歯が生えそろう中学生くらいまで続くこともありますが、その内に歯ぎしりしなくなります。
顎関節が完成するのは8歳くらいです。
それまでは下顎は頭の骨から筋肉を介してぶら下がっている状態です。
それで、顎をどこに置くか定めようとする動きが歯ぎしりになっているのです。
顎関節部分の可動領域が広いので歯ぎしりくらい簡単にできます。
8歳以降でも、6歳臼歯の手前の歯が生え変わる頃に噛む場所が不安定になって歯ぎしりすることもよくあります。
子供の歯ぎしりは成人の場合と同様に、歯ぎしりそのものを止めさせることはとても困難です。歯ぎしりをしていても成長の証なんだと見守っていて大丈夫です。
子供の歯ぎしりはたいがいの場合は放っておいても問題ないのですが、神経のところまで歯が削れすぎて痛い!歯ぎしりの音がうるさすぎて横で寝ていられないと訴えて来られた患者さんにマウスピースを作ったことはあります。
開業して23年、まだ乳歯しかない時期に歯ぎしり防止目的のマウスピースを作ったのは3例しかありませんけど。
余談2:歯が1本曲がって生えてきて普通に噛もうとするとその歯が邪魔をする場合、上下の顎の大きさがマッチしていない、あるいは、顎の左右の大きさが違う場合は一生懸命に歯ぎしりしても下顎は安定できません。これらのケースではそれ相応な処置が必要となります。
以上のように子供の歯ぎしりはほとんどの場合は気にしなくても大丈夫です。
ただ、顎の骨と筋肉がすくすくとバランスよく成長してもらうためには次の事柄を習慣として身につけましょう。
1.よく噛む
よく噛めば筋肉は成長するし、その筋肉につながっている顎の骨も成長します。固いものは何度も噛むと顎が疲れるし、舐めるだけになってしまうかもしれないので、普段通りの食事で「一口30噛み」を習慣付けましょう。
2.噛んでいるときは口を閉じて、鼻で息をする
本来、舌先は上顎に接触しているものですが、口で息をするときは舌先が下の前歯の裏側に来ます。そうすると歯列の外側(頬と唇)と内側(舌)のバランスが崩れて歯並びに悪影響を及ぼします。鼻で息するように心がけましょう
3.姿勢を整える
顔を前にもってくる猫背や背骨が左右どちらかに傾いている姿勢は噛むときに使う筋肉に必要以上の負荷を与えます。顎が前後や左右にアンバランスに働くと、均等に噛めなくなって、顎や骨の成長に何らかのダメージを与える可能性があります。
・子供の歯ぎしりは生理的現象なので余程の不正咬合でなければ心配ない
・子供の歯ぎしりは自然に消失する
・子供と大人の歯ぎしりを止める方法はまだない
・歯ぎしりの悪影響を最小化する方法としてマウスピースがある