近代歯列矯正の始まりはエドワード・アングルによるということになっています。
彼は治療が上手かっただけでなく、今から100年以上前の
1898年に歯を動かす理論書を著し、1925年には今日のワイヤー矯正の原型となる方法を発表しています。
さらに彼は敬虔なるキリスト教徒だったので神から授かった歯を抜くなんてとんでもないことだ!抜かないで並べた歯列は神が意図したものであるという考えの持ち主でした。
そのお陰で様々な歯の移動に関する研究がなされたので、学問としての歯科矯正は進歩したと言えます。
が、抜いた方が良好な治療結果を得られるとの主張があり、ついに1911年に抜かないアングル派vs抜いた方がいい場合があるというカルビン・ケース派との論争が起こります。
当時、矯正のドンであるアングルに睨まれたら歯医者としてやっていけないので抜かない派が大優勢でした。しかも、ケースは自殺に追い込まれてしまいます。
抜歯派にとっては暗黒時代でしたが、1930年にアングルが死去すると巨大な重石がとれて、抜歯した方がいいじゃんという歯医者が急増します。
ケースの気持ちを思うとやるせないですね。
なお、18世紀のフランスではすでに抜歯による歯科矯正が誕生していたのでその当時抜歯が奇抜なアイディアだったということではなかったのです。
その後、顎の大きさに合わせるために歯を抜いて歯を並べる方法は治療後の後戻りが少ないという利点があり抜歯が増えます。
1980年代になると、成長期に顎を広げたり、大臼歯を後ろに移動させることができるようになったので抜歯が減少します。いわゆる「早期治療」が広く知られるところとなり、口の周りの筋肉のバランスを改善することで、きちんと永久歯が並び上下の顎でしっかり噛めるように成長させようという取り外し用の装置が普及し始めます。
ところが、アメリカでは抜歯した歯医者が治療トラブルで裁判になり大金を失ったことから、1990年代には成人矯正でも歯を抜かずに移動させるテクニックが売りの装置が誕生しています。それでも非抜歯には限界はありますが。
日本人の場合は、西洋人に比べて顎に奥行きが少ない、顎が小さい、下顎が後下方に位置するための上顎前突が多い、上下顎が前方に突出しモコっとしている、というケースが多いので抜歯となる割合は西洋人に比べて断然多くなっています。
例えば、上顎前突の矯正治療。全ての歯を後方に送るか、歯を抜いて前歯を下げるか。矯正矯正治療で歯を移動させる距離が長いということはそれだけ骨が吸収される量が多いことを意味します。
骨が溶けてくれないと歯はそこに移動できないので。成人の場合は骨の吸収量が多いと元通りに骨が再生するかちょっと疑わしい。
それで、歯を抜いて移動距離を短くし、移動させる歯も少なくする方が骨には優しい治療ということになります。