2017年7月1日、歯科医が麻酔剤を使い治療した後、当時2歳の女児が死亡した痛ましい事故がありました。
診療後に歯科医は両親から女児の異変を繰り返し伝えられていましたが、全身状態を十分に確認せず救命措置を怠り死亡させたというものです。死因は急性麻酔剤中毒による低酸素性脳症でした。
裁判を3日後に控えた2024年4月22日にRKB毎日放送が2歳児の歯科治療後死亡事故に関する報道を行いました。
この報道に対し、4月25日に日本小児歯科学会は報道の内容および、インタビューに応じた医師・歯科医師のコメントが小児歯科医療に関する重大な誤解・曲解があり、さらに、YouTube上でも多く再生され、波紋が広がっていることから、放送局に対し抗議文を送りました。
以下に、RKB毎日放送の報道とそれに対する日本小児歯科学会のコメントを要約して列挙します。
RKB毎日放送
法医学者である医師のコメント「乳歯なのでそのまま抜けるのを待っててもいいし、他の歯にむし歯が進まないように予防的に治療する、その程度の治療でじゅうぶんだと思います」を踏まえて、治療したことそのものが過剰であり、事故につながったのではないか
日本小児歯科学会
むし歯の大きさだけでなく、今後むし歯が進行するリスクや家庭環境をも踏まえ、その段階での治療が必要かということを判断します。本件報道は、乳歯はそのまま抜けるまで待つか、他の歯に虫歯が進まないように予防的に治療する程度で十分であると誤解を与えかねない内容となっています。
【私見】
乳歯で咬むことは食べるためだけでなく 、 脳や顎の発育にも関係があります。永久歯の萌出スペースを確保する上でも健全な乳歯列が必要です。やはり乳歯はちゃんと治療しましょう。
日本小児歯科学会
小児歯科専門医がむし歯治療に対し麻酔を行うことはしばしばあり、痛みを長く与えないためには、特に必要な基本的前処置と考えています。医師のコメントからは、麻酔をしないことが小児の歯科治療では一般的であるという誤解を、国民に与える報道になっております。
むし歯治療に対する麻酔注射は診療報酬を得られる処置ではありません。小児の治療にあたる歯科医師は、麻酔により収入は得られないが、必要と診断したから麻酔を行っています。麻酔を行う報酬上のメリットは歯科医師側にはありません。
【私見】
局所麻酔による有害事象として、アナフィラキシー、局所麻酔薬中毒、迷走神経反射、添加アドレナリンの血管内注入による症状が挙げられます。これらが起こる確率は極めて低いのですが、正直、余程のことがない限り未就学児には麻酔は怖くて出来ません。ましてや虫歯の治療で3歳未満のお子さんに麻酔を打つなんてあり得ません。
RKB毎日放送
法医学の医師と口腔外科医師のコメント「麻酔治療が必要なむし歯は1本もなかった」
日本小児歯科学会
1)乳歯のむし歯は、表面的には何も穴があるように見えなくても中で大きく広がっていることも多く、一見してむし歯がないとは判断できないケースが多々あることも、診断の際には十分に留意する必要があります。
2)虫歯が減っているので小児のむし歯を数多く目にし適切な診断ができる歯科医師は少ないのが現状です。日常的に小児の診察にあたっている小児歯科専門医とそうではない歯科医師の診断の差異が非常に大きい。コメントを行った歯科医師も小児歯科の専門性を有していないことから、適切な診断を行っていない可能性が非常に大きいと考えています。
【私見】
1)確かにそのようなケースは案外多いです。が、今回のケースがどうだったかは定かにされていません。
2)一般歯科医を随分とディスってますね。
RKB毎日放送
小児に対する歯科治療が利益を得やすい構造になっている。6歳未満の場合、歯を削る治療の診療報酬が大人の1.5倍になっているため、応急処置以外は治療しなかった3歳未満のむし歯や治療可能な年齢であっても昔なら治療しなかったような小さなむし歯が削られている。
日本小児歯科学会
歯を削る治療と、進行止めを塗った時の保険点数の比較をされておりますが、この治療選択の判断は小児の歯科治療に対する協力状態、小児に対応する歯科医師の技量に依存するものです。小児歯科専門医であっても低年齢や協力が得られない場合は進行止めを塗ることがありますが、この治療はあくまでも一時的なものと考えられており、成長や協力度の改善が見られた後は削る治療を行うことが基本であるとされています。
一時的な処置である進行止めと、削って詰める治療が、同等の結果がもたらされるのに過剰な治療が行われているかのように記載されている本件報道は国民に誤解を与えるものです。
【私見】
日本小児歯科学会のコメントには、進行止めを塗った処置と歯を削って詰め物をした治療は小児にとってどのような差が生じるのかが説明されていません。進行止めの有効性はどうかとか、詰め物の機能的優位性をアピールしたらよかったのに、残念です。
一般歯科医院では検査からクラウンや入れ歯・ブリッジなど保険診療点数が高い処置がたくさんあります。小児では歯型とって被せるとかほぼ無いし、ましてや入れ歯・ブリッジなど考えられません(極々稀にありますが日頃の診療ではないです)。それで、一般歯科と小児歯科の報酬で整合性を持たせるために6歳未満を1.5倍にした、という説はたぶん違うと思います。小児歯科専門医院でも6歳未満の30~40%が診療に非協力的であり、一人当たりの診療時間も長い傾向にあります。ましてや、一般歯科ではさらに数値が悪化しているかもしれないということで1.5倍になったのかな、う~よくわかりません。
日本小児歯科学会
一般開業医で対応できない小児はまだ多くいるので、小児歯科専門医は小児やその保護者の双方に対し、個々に応じたむし歯リスクの低減のためのアドバイスや処置を行っています。
小児歯科では治療だけでなく、むし歯予防や歯並び、口の機能の管理など多岐にわたる悩みに対応しています。
今回のような国民に誤解を与える内容の報道により、国民に大きな不安を与え、子どもやその保護者が小児歯科受診を控える、あるいは歯科医師が治療に対して躊躇するなどの影響が生じた場合、子どもたちの適切な口腔環境の維持が阻害される可能性が大いに考えられます。
また、安心安全な小児歯科医療の提供を行うべく日々努力されている小児歯科専門医の業務にも、重大な支障を生じています。小児の歯科診療に関する状況を正確に把握した上で報道していただくことを強く願います。
【私見】
今回は診療に行き過ぎた点があったとRKB毎日放送は報道し、それに対して日本小児歯科学会は懸命に反論しています。日本小児歯科学会は治療後に適切な処置を行わなかった当該歯科医については完全にスルーしています。これじゃ身贔屓が過ぎると思われても仕方ないかな。
4月25日、福岡地裁であった判決は被告の歯科医に対し禁錮1年6カ月、執行猶予3年(求刑禁錮2年)でした。