歯科には口腔外科、矯正歯科とか小児歯科のような臨床系もあれば、
細菌学や材料学など基礎系もあり、合わせれば様々な分野があります。
それぞれに学術誌が発行されています。
国内外を合わせると何百何千とありますが、
論文の引用件数などからみた重要度のランキングで世界で総合10位以内に入り
虫歯専門誌としてはNo.1の「Caries Research」という学術誌に、
開業医でありながら大学で研究もしている友人の論文が2024年7月17日にオンライン公開されました。
その論文を一行で要約すると「野菜に含まれる硝酸は虫歯予防をサポートする」ですが、
もう少し詳しくまとめてみます。
プラーク(歯垢)には糖から酸を作って虫歯を誘発する細菌がいますが、他にもアンモニアや硫化物を作る細菌がいたりして口腔内常在菌は多彩です。
そんな口腔内の細菌の中には硝酸を亜硝酸にするものがいます。
さらに亜硝酸を分解する細菌もいます。
硝酸は野菜(特に葉物野菜)に多く含まれています。食事によって摂取された硝酸は、消化管から速やかに吸収され、血液を介して全身を循環し、その一部が唾液成分として再分泌されることから、私たちの口腔には常に硝酸が存在しています。
食事中にプラーク内に糖が入ると酸が作られてpHは低下します。虫歯の危機です。
プラーク内では酸産生と同時に硝酸から亜硝酸が作られます。それに伴いpHの低下は抑制されます。さらに、糖が多くあるほど亜硝酸の産生は増えるので、抑制効果は一時的ではなさそうです。
以上から、硝酸がpH低下を抑えているという点でむし歯予防に寄与する可能性が示されました。酸が強すぎると細菌にとって生存が厳しくなるので、亜硝酸産生機能はプラーク内の細菌の生命安全装置なのかもしれません。
亜硝酸は、抗菌作用に加えて血圧降下作用を有することが報告されいます。
硝酸→亜硝酸の関係は虫歯などの細菌性口腔疾患、脳や心臓などの循環器疾患を予防しており、全身の健康維持に寄与している可能性に注目が集まっています。
今後は、口腔細菌による、より効果的な亜硝酸産生条件の模索や、細菌群との最適な共生のありかたなどを含めて、さらなる研究を進めていきたいと考えています。
以上が論文の要約です。
原文は下記のアドレスをご覧ください。
https://doi.org/10.1159/000540017