幼児が顔面を怪我したとき乳歯がグラグラする、欠けた、折れた!と来院されることがあります。
「この乳歯は生え変わりまで保ちますか?」
「永久歯に影響はありますか?」
これらが、保護者である親御さんがもっとも気にするところです。
* 6歳未満では、世界でも日本でも、唇の含めた口の外傷は身体全体の外傷の中で2番目に多く、世界8億人の調査では22%もあります。ヨーロッパでは14%、南北アメリカは26.5%、東南アジアは27%。ヨーロッパがなんで低いのか、ちょっと不思議です。
ちなみに、日本では外傷が最も多い年齢は3~5歳間で、原因は転倒が50~60%、衝突が20%です。
乳歯前歯は生後6~10ヶ月に生えてきます。根っこが完成するまで12~14ヶ月を要します。
顎の骨の中で永久歯の前歯の歯冠が石灰化して形が出来始めるのは出産時からです。
3歳以前は永久歯の前歯の歯冠はまだ完成していません。
生後5年間は顎の骨の中で乳歯の根っこと出来始めの永久歯が近接しています。
乳歯が根っこまでダメージを受けると後継の永久歯もダメージを受ける可能性があります。
具体的にどんなダメージが考えられるか
2歳未満に前歯をぶつけて、乳歯が骨の中に潜り込む、乳歯がグラグラするといったダメージを受けると永久歯は
①エナメル質の白色、黄褐色の変色
②エナメル質の低形成 (円形の低形成や歯冠頚部から変色部にかけて細い水平な溝ができる)
が起こることがあります。
* 低形成がエナメル質の喪失を伴っている場合は面がボコボコして歯垢がたまりやすく虫歯のリスクが高まるので修復します。
3歳以降でも歯や顎を強打して歯が陥没する、顎の骨を骨折する、歯が脱臼するという事態に至ると、
歯冠拡大、歯根拡大、萌出が遅くなる(萌出異常、萌出困難)、違う場所から歯が生える(異所萌出)、などが起こることがあります。
ほとんどの障害は、混合歯列初期の永久歯の萌出時に明らかになります。
それでも、強打し歯にかなりの衝撃を受けた場合は年に1回はレントゲン写真を撮って後続の永久歯の様子を観察することもあります。萌出異常や異所萌出が起これば歯冠修復だけでなく矯正治療が必要になってくることも稀にあります。
この場合は受傷してから長期の観察期間を要するので、患者さん側が医院側の指示通りに治療を受けるというより、治療方針の決定に参加し納得がいったところで積極的に治療を受けることが大切だと思います。