FDA(アメリカ食品医薬品局)は、妊娠中に服用したときの副作用に基づいて
抗生物質をA~Eの5つのカテゴリーに分類し、
妊娠中の副作用が報告されていないカテゴリーA群の抗生物質、あるいは、
ヒトでは大丈夫だが動物実験では副作用があったカテゴリーB群の抗生物質であれば妊娠中の使用は可能であり、妊婦は通常通り安全に服用できるとしています。
カテゴリーC~Eの抗生物質は順に副作用の可能性が高くなり、服用は推奨されていません。
日本でも、国立育成医療研究センターが妊娠中・授乳中に内服できるFDAと同様な抗生物質や解熱鎮痛剤をウェブサイトで掲載しています。
しかし、妊産婦に安全であると言われていても、基本的には妊産婦に薬を内服させない方向で考えている歯医者がほとんどであろうと思います。
歯が原因となる感染症の抑制は妊婦に必要な処置ですが、麻酔や抗生物質投与を伴う妊娠中の口腔内治療は多くの歯科医院で避けられているようです。
治療に積極派の根拠
感染症は母体にとっても胎児にとっても危険なものです。
虫歯はしばしば根っこの感染症を伴い、妊娠中の患者やその胎児へのリスクを増大させます。適切な処置を行わない場合は全身に炎症が広がり重篤な疾病に発展する恐れもあります。
例えば、早産と感染症の関連の可能性が言われています。
原因として炎症性サイトカインに対する炎症反応が挙げられており、抗生物質が早産の治療に有効な役割を果たしています。局所的に作用する抗生物質の局所投与や、全身的に作用する抗生物質の内服投与、更に状況が厳しい場合は、入院して抗生物質の点滴投与が必要となることもあります。
歯科で主に行う局所麻酔は妊婦はもちろん胎児への影響もないと言われています。胎児に奇形を生じさせた事例について報告がなく安全に使用できるとされています。
授乳中に使用できる抗生物質や解熱鎮痛剤はこれまでのデータに基づいて評価されたものが公表されているので、大量に使用しない限りは安全と考えられています。
治療に慎重派の根拠
抗生物質は水に溶けにくく、しかも分子量が小さいので、血液中の抗生物質濃度が高く保たれ、胎盤関門を通過しやすとされています。口から飲む抗生物質は吸収率が低いため少量ならまだ安全でしょうが、多量になると胎児に影響を与えるかもしれません。
抗生物質の過剰使用に関連する主要な問題点として耐性菌の拡大もあります。
更に、授乳によって、もし過剰に赤ちゃんが飲み込んだら、抗生物質は赤ちゃんの腸内細菌叢のコロニー形成を阻害する可能性があります。
この阻害は赤ちゃんの免疫系の発達と成長を阻害し、病気やアレルギーを引き起こすかもしれません。
薬の副作用を恐れて重篤な疾患を放置するのはナンセンスな話です。
感染症の治療は不可避です。
問題は、薬を使わなくても大丈夫な治療ができる、現状は薬を使用しないと酷くなる可能性が高い、あるいは薬を使用しなければならない程の状態なのかの見極めです。
万が一にも妊娠中・授乳期間中に虫歯があったり、腫れがあったら歯医者さんとよく相談してください。